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罪人たちのクリスマス ~All I want for Christmas is You Sinner!

「『キリスト・イエスは、罪人を救うために世に来られた』という言葉は真実であり、 そのまま受け入れるに値します。」(テモテへの手紙一1章15節)

クリスマスが近づいて来ると、1994年にヒットしたマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス(原題「All I want for Christmas is You」クリスマスに欲しいもの、それは〝あなた〟)という曲が自然とわたしの頭の中に流れてきます。でも本当は「恋人たちのクリスマス」ではなくて「罪人たちのクリスマス」というのが真実なのではないでしょうか。キリストがこの世にお生まれになったその意味を考えると、そのように思えてくるのです。

 スウェーデンの作家で1909年にノーベル文学賞を受賞したセルマ・ラーゲルレーヴという人がいます。この人はキリストに関する伝説のようなものを題材にして小説を書いていて、その中に『わが主とペトロ聖者』という小さな短編があります。芥川龍之介の有名な『蜘蛛の糸』のお話の元になったとされる作品で、大変興味深いお話です。

 お話をわかりやすく要約しますと、イエス様とペトロとが天国に行って、天上から下界を見ていると、ペトロが下界の様子を見て泣くのです。「自分はこうやってイエス様と一緒に天国に来て大変幸福だ。でも自分の母親はじつは地獄で苦しんでいる。だからぜひ、母親を天国へ連れてきてほしい」とイエス様にお願いをします。イエス様はその時ペトロに「なぜ、お前の母親が天国に来られないのか?きっと、お前の母親は大変お金にうるさくて、欲が深いから天国に来られないのだ」と言います。ペトロは「そんなことはありません。あなたは必ず人をお救いになることだから、ぜひわたしと同じように天国へ母親を連れてきてほしい」そう願います。そこでイエス様は、天使に命じて、「お前は地獄へ下りて行ってペトロの母親を迎えに行きなさい」と言います。そのイエス様の言葉を受けて、天使は羽を広げて矢のように地獄へと下って行き、ペトロの母親を迎えに行くのです。ペトロはしばらく地獄を覗き込んでいますが、なかなか天使が上がって来ません。しばらくして、天使が勢いよく下から母親を連れて上って来るのが見えてくるのですが、よく見ると、その母親の肩と言わず腕と言わず足と言わず、大勢の人がしがみついています。そして大勢の人たちがしがみついているにもかかわらず、天使は勢いよく天国に向かって上って来るのです。「おお、すごい!」

 しかし、よく見ると、ペトロの母親が途中で、自分にしがみついているその人間をどんどんと振り落としていっています。そして不思議なことに、人が下へ下へと落ちて行くにしたがって天使はだんだん上ってくる力が弱くなってくるのです。とうとう、最後の一人が母親に必死にしがみついていますと、天使は喘ぎ喘ぎ上ってくるようになる…そして天使が喘ぎ喘ぎ上って来る途中に、最後に残った一人を母親が振り落とすと天使は力を失って、とうとう上りきれなくなってしまい、結局天使はペトロの母親を振りほどいて下りて行ってしまうのです。それを見てイエス様がペトロにむかってこういうふうに言いました。「お前はこの有り様を見たか?だからわたしが下界へ下りて行ったのだ」。

 キリストは天国から下界を見下ろしていて、人々が天国に自分の力で上ってくるのを待っている…そういうお方ではなく、人間のこの罪の世界に自ら下りて行くお方である…そのことをラーゲルレーヴはこのお話から語っているのです。

 「『キリスト・イエスは、罪人を救うために世に来られた』という言葉は真実であり、そのまま受け入れるに値します」と聖書はわたしたちに告げています。クリスマスにイエス様がお生まれになった。罪人を救うためにこの世に来られたイエス様のご降誕を「罪人たちのクリスマス」としてお祝いしたいものです。イエス様もきっとこのように言いたいのではないでしょうか。「All I want for Christmas is You Sinner! 疲れはてし罪人よ、われにとく来よ!」。メリー・クリスマス!

日本福音ルーテル板橋教会・東京教会 牧師 後藤直紀

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