1. HOME
  2. ブログ
  3. バイブルエッセイ
  4. 「友と呼ぶ―信仰の継承」

刊行物

BLOG

バイブルエッセイ

「友と呼ぶ―信仰の継承」

「わたしはあなたがたを友と呼ぶ。父から聞いたことをすべてあなたがたに知らせたからである。」
ヨハネによる福音書15章15節

 今年の聖霊降臨(ペンテコステ)は、どんな風が吹くのでしょうか。世界を取り巻く環境や身近なところにおいて、疫病も戦渦もなくしてほしいと願っている人は多くおられます。そのなかで、私たちは聖霊の息吹きに希望をいだいています。
 この数ヶ月、私たちの教会や幼稚園・保育園において「キリエ・エレイソン/主よ、あわれみを」(『こどもさんびか改訂版』27番/曲・ウクライナ民謡)の短い賛美をくり返し歌い続けています。そして、東方正教会でもちいるイコン(挿絵参照)も飾り、心に留めています。子どもたちから「このクリクリお目々のふたりはだあれ?」と聞かれます。「イエスさま(右)とメナスさん(左)だよ」と話しました…。
 このイコンに私が出会ったのは、以前ショートターム研修(ELCA主催)に単身で訪れたフランスのテゼ共同体でした。創立者ブラザー・ロジェ(1915〜2005)が特に心にかけていたイコンで「和解の教会」の礼拝堂に飾られています。学びのなかで気づかされたことの一つは「信仰の継承」です。ロジェに大きな影響を与えたのは、第一次世界大戦中、難民を次々と家に迎え入れていた祖母の生き方でした。彼女はキリスト者がいくつもの派に分かれて武器をとり戦っていることを憂い、キリスト者だけでも和解することが出来れば次の戦争を防げるのではないか、と思い描きます。プロテスタントに立脚しながらカトリックの人々と聖書を学び、そして改革派の牧師のロジェの父も祈りを共にしました。ロジェは、超教派(エキュメニカル)の修道会の構想をいだきます。彼もまた第二次世界対戦で戦禍を逃れてきた人々を迎え入れ、その中のロシア難民との出会いで霊性に強い関心をよせます。これらのテゼのビジョンに共鳴したのが東方正教会のコンスタンティノープル総主教アテナゴラスで、正教会内にもう一つのテゼ共同体を創立したいと願い出ました。ロジェは本来の一致への歩みとは異なることを丁寧に説明し、修道士の派遣を要請して創造的な交流を深めました。この流れなかでロシア正教会のひとりの若い神学生がテゼを訪問します。後に彼は神学校の校長、府主教となり、この人物、キリル府主教はテゼに関心を向け再訪し、ロジェの後のテゼを継いだブラザー・アロイス現院長もモスクワに招待します。2009年彼はモスクワ総主教となり、エキュメニズムに関しての展望、ロシアの青年たちへの司牧などについて会合を開きました。今この時に、もう一度それぞれに受け継がれた互いの信仰が交わるよう願い求めたいのです。
 挿し絵のイコンは「友情のイコン」(Icon of friendship)と称されます。子どもたちには…メナスさんは、ローマ帝国の軍人だったのだけれど、ある時国からイエスさまを信じてはダメと言われて立ち止まった。武 器を捨て軍隊をやめんだ。その後、捕らえられてしまったけど、メナスさんの横にはイエスさまがおられる。よく見ればイエスさまの右手がメナスさんの肩を抱いている。そしてイコンの裏には、ロシア語(キリル文字)で「わたしはあなたがたを友と呼ぶ。父から聞いたことをすべてあなたがたに知らせたからである」と聖句が書かれているよ。イエスさまは、世界のお友だちとも肩を組み「互いに愛し合いなさい」(ヨハネ15・17)と言われたいのだね。いっしょに前を見つめながら…と伝えています(詳細はYouTube「ルーテル箱崎教会」こどもへのおはなし)。
 眼前の戦乱に、いち早く動いたテゼ共同体は宿を構えウクライナからスペイン、ポルトガルなどへ逃れていく人たちをコーディネートしています。テゼに関係の深いロシアにいる友は和平を望む声を総主教に働きかけています。またロシアの青年に対して積極的にテゼを訪れてほしいと呼びかけています。表立って目に映るニュースになりませんが、無力ではありません。聖霊の力は、かつて和解の歴史をつくり、今なお私たちを突き動かします。聖霊降臨(ペンテコステ)を迎える時、主は友と呼ぶ私たちに、余すことなくすべて御心を知らせるのです。

1面説教和田憲明2022年6月号図版「友情のイコン「キリストと修道院長メナ」(8世紀、ルーブル美術館所蔵)」

関連記事