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るうてる福音版2010年6月号

機関紙PDF

思いがけない視点

梅雨時になるとK君のことを思い出します。障がいのある男の子で、彼が小学3年生の時から5年生まで家庭教師として関わりを持ちました。家庭教師といっても学校の勉強を教えるのではなく、外で遊びながら、いろいろなことを経験していくことを目指しました。未知の世界へのチャレンジ、まさに試行錯誤の連続でした。そのような中で、補助輪を外して自転車に乗れるようになった時には、K君以上にご両親が喜ばれ、その日のうちに新しい自転車を買いに行かれました。その自転車でサイクリングも楽しむことができました。ボール遊び、縄跳びなどをしていました。また、絵本を読んで感想文を書いたり、日記を書いたりしていました。彼は、なかなかの詩人でした。
雨が続いたある日、K君は小さな葉の上に一滴の雫があるのを見てこう言いました。「先生、葉っぱが重いよーって言ってる。」
雨の雫一粒が小さな葉の上に乗っている、その葉には一粒がちょっと重かったから少し下を向いているのだ、そうK君には見えたのでしょう。或いは、うつむき加減になっている葉の声が聞こえたのかも知れません。けれどもその時の私には、K君が感じたように見ることはできませんでした。小さな葉の声に耳を傾ける、小さな葉から見る、というような視点はありませんでした。雨に濡れた花や葉を、「しっとりとして美しい」、「草花には潤いの雨」、そう、雨にだけしか目が向いていなかったのでした。草花の側に立つとき、激しく降る雨を「潤いの雨」などとは受け止めることなどできないでしょう。
雨に濡れた小さな葉を一つとっても、いろいろな視点で見ることができます。しかし、私たちにはそのすべてを、いつも見ていくことはできないのではないでしょうか。私たちの思いを超えて見守ってくださっている方がおられることを、聖書は教えてくれています。 AU

第15回 「身土不二」


『主なる神は、土(アダマ)の塵で人(アダム)を形作り、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きるものとなった。』(創世記2章7節)

「身土不二(しんどふじ)」は、一般に、人が住むその土地で作られる旬の食べ物を正しく摂ることによって元気で長生きできるといった養生訓として人口に膾炙(かいしゃ)されてきました。今、盛んに喧伝されている「地産地消」の本来の意味と考えればよいでしょう。仏教用語に由来するこの言葉の真意はなお不明ですが、文字どおり解釈すれば、身体と土とは互いに不二であるということになります。いずれにせよ、この語には、人間や動植物、果ては土や石などの無生物まで、この世界に存在する全てのものが互いに繋がり合って生命を廻らせているという仏教的思想(空海、『即身成仏(そくしんじょうぶつ)義(ぎ)』)が反映されていることは確かです。
私が永くかかわってきた自然、有機農法は、「自然のしくみに沿い、土本来の力を活かす」を基本思想としています。土から始まり、植物、動物そして人間へ、さらに土へと廻るいのちの循環の中で、土が持つ機能を十分に発揮させる農法ともいえます。土が健康であればその影響は植物、動物を経て人間の健康に繋がる、という理に基づきます。土の弱体化は、人間の不健康に行き着くことはまた当然のことでしょう。
野菜の栄養価が戦後間もない昭和20年代から最近に至るまで減り続けている事実があります。『食品成分表』の初版(昭和25年)から第5訂版(平成12年)までを比べてみると、例えば、主要野菜12品目のビタミンAとCの含量はそれぞれ平均50%か、あるいはそれ以上確かに減少しています(中井、2008年放送大学講義資料)。この原因は多様でしょうが、農薬や化学肥料依存の農業による土壌の疲弊が主要因であることに間違いはありません。また、夏作のホウレンソウのビタミンC含量は、旬の冬作に比べて三分の一に減少するという報告も複数例あります。
日本で自殺者が12年連続で年間3万人を超えていることは周知のことです。これは日本人全体の生命力が低下している象徴的な出来事といえるでしょう。その原因は複雑多様であるに違いありません。しかし、今、私たちが直面しているいのちの危機は、健康な土壌を基盤として、自らが生きものといういのちを育て、そのいのちを食べるという生きる基本から遠く逸脱したところから生じているのではないでしょうか。
土に始まり、廻るいのちの循環にあって、人間のみがこの秩序を乱す存在であることに改めて気づかされます。しかし、この秩序を再生させることができるのもまた人間です。聖書は、最も直裁(ちょくさい)に人は土であることを告げています。しかも、神はそれに命の息を吹き入れられたと。これは、「人間がいのちの循環の要となりなさい。」という、神の限りない激励であり、愛のように私には思えるのです。
中井弘和(静岡大学名誉教授 農学博士)

園長日記 毎日あくしゅ

「花の日」

6月は、日本では雨の多い時期でじめじめした印象ですが、外国ではジューンブライドといって結婚式が多いそうです。きっとさわやかな季節なのでしょう。日本でも6月に結婚式をする若い人達が増えてきました。
この時期は園バスから外を見ると、いたるところに田植えの準備がされていて、子ども達と「私達が食べるお米ができるんだよ。嬉しいね!」と話しながら乗っています。このようなのどかな風景がいつまでも続いてほしいと願っていますが、働いているのはお年寄りばかりで考えてしまいます。
6月は梅雨時なのに園の行事は多くあります。その中で大切にしている行事の一つに「花の日」があります。神様が創られた世界の中で、一番美しいのが子どもとお花と言われたりしますが、本当にそうですね。
当園では、その綺麗な花を持って近くの老人ホームを訪問しています。もう30年近くその老人ホームにはお世話になっていますが、毎年楽しみに待っていてくださって嬉しいことです。
当日は、教会学校と合同ですが、幼稚園では保育の一環として行っています。今の若いお父様やお母様方の中には老人ホームに行ったことがない方もおられ、保護者の方々にもぜひ知ってほしい、観てほしいとの思いから全員参加にしました。たくさんのご家庭から少しずつお花を花束にして持ってきてもらい、おじいちゃまやおばあちゃまに子どもたちが直接手渡します。それは涙を流して喜んでくださる方も多いのです。
その老人ホームは、半分以上の方々が80歳以上で最高年齢は100歳を超えています。おじいちゃま、おばあちゃまからすると園児たちは、曾孫もしくは曾曾孫ほど年齢差があります。このおじいちゃまやおばあちゃまは戦争も体験して来られました。私たち職員はみんな戦後生まれですが、きっと大変な思いをされた時もあったことでしょう。
前の園長先生は戦争中の東京大空襲を経験された方です。以前の訪問の時、その貴重なお話をされておじいちゃまやおばあちゃまと気持ちを共有されていました。私たちはお年寄りの方々の大変なご苦労の上に今の幸せがあることを、しみじみと感じさせられた一日となりました。
神様から頂いている平和と幸いを、次代を担う子どもたちに大切なこととして伝えていきたいと思っています。
玉名ルーテル幼稚園 園長 中島千麻子

聖書のつぶやき

「異常気象のような雨だな~」

「ノアの箱舟」の物語は、「この地は神の前に堕落し、不法に満ちていた」から始まります。神様はその様子をご覧になり、人間をつくったことを「後悔?」されたようです。そこで大洪水を起こして、すべてを一掃しようとお考えになりました。ところが、ノアのことを思い出されました。彼だけは神様の御心にかなう人だったのです。ノアと家族、地上の生き物を一つがいずつ、大きな箱舟をつくってそれに乗るようにと指示されました。豪雨は40日40夜という長い時間降り続きました。
40日も豪雨が降り続く。しかも真っ暗な時間。いつやむかわからない。そんな状況のなかにあっても、なぜかノアも動物たちも安心しています。そこに神様の約束があるからです。「すごい豪雨だな」「まだ降っているよ」「はやく外に出たいよ」。箱舟の中で会話しながら、神様の約束に希望をもって雨がやむことを待っていたのでしょうね。

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