ユダヤ人の王はどこに
「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです。」(マタイによる福音書2章2節)
新年あけまして、おめでとうございます。正月に礼拝に出席し、讃美歌49番「新しい年を迎えて」と賛美し新年を迎えられたことでしょう。
東方のペルシアから、占星術の学者たちが不思議な星に導かれて、エルサレムにやって来ました。彼らは高い学問を受けた天文学や薬学の博士で、ユダヤ人の王が生まれたと知りました。王に初めて会いに来た異邦人は、イスラエルの神と縁もゆかりもない占い師で、東方から夜に長旅をして来ました。 彼らは王であるキリストと出会う、全ての人々の代表です。
学者たちはエルサレムに来て尋ねます。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか」と。ヘロデ王とエルサレムの人々は不安になりました。ヘロデが王であると誰も疑わなかったからです。ヘロデは祭司長や律法学者を集め、王の生まれる地を問い、「ユダヤのベツレヘムです」と答えを得ました。彼は占星術の学者たちを呼び、星の出現した時を確かめて言いました。「その子のことを詳しく調べ、見つかったら知らせてくれ」。ヘロデは学者たちの報告を受けて、次の手を打つ手はずを整えます。
再び星が学者たちを導き、幼子の家の上で止まりました。 家に入ると幼子は母マリアと共におられ、学者たちは幼子にひれ伏し、黄金・乳香・没薬を献げます。遥か彼方から夜間に輝く星を頼りに、長い旅を続けて来たユダヤ人ではない異邦人が、初めて幼子メシアに出会ったのでした。
ヘロデとイスラエルの人々をうろたえさせた「ユダヤ人の王」は、マタイ福音書27章でも語られます。主イエスは十字架にかけられる直前、総督ポンティオ・ピラトから「お前がユダヤ人の王なのか」尋問されます。これに対して主は「それは、あなたが言っていることです」と言われました。主は自らを「ユダヤ人の王」とは言いませんが、十字架の罪状書きに「ユダヤ人の王イエスである」と書かれました。それが真実でした。
夢のお告げが「ヘロデの所に帰るな」と学者たちに示したので、彼らはヘロデに会わずに別の道から国に帰り、ヘロデの悪巧みは打ち砕かれました。福音書記者マタイは、メシア誕生の目撃者に占星術の学者たちを選びました。その証言は主イエスが救い主である、との信仰が生まれる発端になりました。学者たちは知恵を絞ってメシアをベツレヘムに見出したのではないのです。輝く星に導かれなければ、彼らはベツレヘムで、幼子に出会うことはありませんでした。
東方の博士の訪問から、ヴァン・ダイク作「もう一人の博士」を思い出します。マタイ福音書に登場した学者は、3人とは書かれていません。この物語には4人目の博士アルタバンが登場します。
彼は輝く星からユダヤ人の王の誕生を知り、財産を売り払ってサファイア・ルビー・真珠を買い求め、王に宝石を献げようと旅立ちます。他の博士たちとの集合場所に急ぐ途中、王はベツレヘムに生まれると知らされますが、瀕死の男性を介抱するのに手間取って、約束の時間に遅れてしまいます。その後、砂漠を先行する仲間を追い、疲れた馬の代わりにラクダを買うためにサファイアを売り、3日遅れでベツレヘムに着きました。しかし、他の博士たちは既に帰路に着き、救い主と両親はエジプトに逃げ去っていました。
彼はヘロデが幼子の王を殺すため、兵隊を差し向けた混乱にも遭遇します。そこで世話になった母親と赤ちゃんを助けるため、ルビーを兵士に差し出してしまいます。
その後、彼は30年、救い主を捜し求め、エジプトからエルサレムに戻ります。捜していた救い主が十字架にかけられると聞き、王を救う身代金に真珠を差し出そうとしますが、借金のため奴隷として売られる娘を助けるために真珠を差し出してしまいます。王に差し出す宝物はすべて無くなってしまいました。
救い主が息を引き取り大きな地震が起きた時、アルタバンと娘は天の声を聞いたのでした。「私の兄弟である小さな者のひとりにしたのは、私にしたのである。」
彼は救い主に出会い、宝物は小さな者を通して、ユダヤ人の王に受け取られたのです。4人目の博士の望みはかなえられ、ユダヤ人の王は喜ばれたに違いありません。
日本福音ルーテル函館教会 牧師 小山 茂