イエスがお生まれになったとき
イエスは、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになった。その時、占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て、言った。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです。」これを聞いて、ヘロデ王は不安を抱いた。エルサレムの人々も皆、同様であった。 (マタイによる福音書2章1節~3節)
クリスマスページェントは、
♬ 昔ユダヤの人々は神さまからのお約束、貴い方のお生まれを嬉しく待っておりました。
貴い方のお生まれを皆で楽しく祝おうとその日数えて待つうちに、何百年も経ちました ♬
という歌から始まることが多いと思います。
マタイによる福音書1章では、イエス・キリストの誕生の次第を、聖霊によって宿ったこと、そして、その誕生は700年以上前から預言者イザヤによって「見よ、おとめが身ごもって、男の子を産み その名をインマヌエルと呼ぶ。」(イザヤ書7・14)と告げられていたと伝えています。私たちもユダヤの人々はメシアの誕生を待望していたと聞いています。けれどもマタイによる福音書が語るクリスマスの出来事は違うのです。
イエスさまがお生まれになった時に、東方の占星術の学者が星に導かれてヘロデ王のいる宮殿に訪ねて来ました。そして、「ユダヤ人の王」として主イエスがお生まれになったと東方の学者たちから聞かされて、ヘロデ王だけではなく、エルサレムの人々も、喜びどころか不安を抱いたと語るのです。生まれたばかりの主イエスは、泣き声をあげるだけで、何を語ったわけでも、何をしたのでもないのです。それにもかかわらず、多くの人々に動揺を与えたのでした。
ここにイエスさまの誕生を巡る2通りの人間のドラマを見ることができます。東方の占星術の学者たちと、ヘロデ王とエルサレムの人々です。
マゴスと呼ばれる東方の占星術の学者たちとは、天文学が盛んなペルシアやメソポタミアあたりの学者であろうと言われています。ユダヤから見れば遠い国です。彼らはユダヤ人ではなく異邦人です。他宗教の学者たちです。キリストとは縁もゆかりもないその人たちが、「ユダヤの王」として生まれたキリストを礼拝するために、星の導くままに旅をしてきました。どれほどの長旅だったのかわかりません。
しかし、分かっていることは、その旅は危険に満ち、困難の伴う命がけの長旅であったということです。驚き以外何ものでもありません。マタイによる福音書ではイエスさまを礼拝したのは、この異邦人の学者たちだけです。彼らがイエスさまを「ユダヤ人の王」と認めたということは、イエスさまもまた異邦人の王でもあるということを意味しています。彼らはメシア(キリスト)に最も近い存在となっていたと言えるでしょう。
他方、エルサレムの人々は預言者の言葉を聞いていた人々でした。預言者の言葉を身近に聞いていたはず、知らされていたはずです。にもかかわらず、それらの言葉を受け入れることができませんでした。祭司長たち、律法学者たちはユダヤ教の指導者、代表者であったのです。彼らはヘロデに問われ、聖書からメシア(「ユダヤ人の王」)が生まれる場所がベツレヘムであることを即座に言い当てています。しかし、それだけです。自分たちで確かめようとはしませんでした。メシア(キリスト)に近い存在であったにもかかわらず、実際には最も遠く離れた存在だったと言えるでしょう。
「あなたがたは、このように以前は遠く離れていたが、今ではキリスト・イエスにあって、キリストの血によって近いものとなったのである。」(エペソ人への手紙2・13/口語訳)
日本福音ルーテル高蔵寺教会牧師 中村朝美